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2008年1月25日 (金)

本当にあった(らしい)怖い話

100900000 教室に試験終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「やったぁ、明日から夏休みだ」
前期の試験が終わった開放感がどの学生の顔にも溢れていた。

大学近くの喫茶店に集まったB郎、C彦、D介のテーブルへ注文をとりにきたのはこの店でアルバイトとして働く仲間のA也。
「おれナポリタンの半熟玉子のせ」
「ハンバーグと焼きそばのサンドイッチ」
「鯖缶ピラフ」
みな口々に裏メニューを注文しながら明日からの、いや今夜からの遊びの相談に余念がない。
田舎へ帰るもの、サークル仲間で旅行を計画するもの、バイト三昧のもの、自動車の免許を取るというもの・・・
しかし今夜だけは4人で遊ぼうとの意見は一致した。

「ドライブしたいよなぁ」
しかし、全員車は持っていない。
「きれいなおねえちゃん乗せて走りたいよなぁ」
貧乏学生のつぶやきを見かねたこの店のマスターがひと肌脱いでくれることになり、車を貸そうと言ってくれた。
「ひとつだけ言っておく、傷はつけるなよ」
「ありがとうございま~す」
こうして若者4人は夜の六甲山へと・・・前途にあんな事件が待っていようとは全く知る由もなく・・・車を走らせたのだった。

立ち木の間から神戸の街の明かりが見え隠れする山道を走るスポーツカーは、型式こそ古いがなかなかの走り、免許を持つものが交代で運転しながら山頂を目指した。
ただし、有料のドライブウェイを避けての走行だったので、時には舗装されてない道や脇道にとまどいながらのドライブだった。カーステレオのボリュームを上げて大声で吉田拓郎を歌いながら、夏休みイブの青春満喫状態だった、はずだった。
・・・やがて運転しているA也が言い出した。
「もうとっくに山頂に着いてるはずやけど」
「あれぇ、有馬温泉こっちって看板が出とう」
「有馬温泉って六甲の裏側やで」
「そやけど道はまだ上ってるぞ」
「いや、さっきから下りになってる」
B郎が下っていると言うのに反してあとの3人はまだ上り坂が続いていると言う。
いつのまにかあたりは真っ暗、街の明かりどころか道路わきの街路灯さえなくなっており、完全に道に迷ってしまったようだった。
「下っている」
「上っている」
の言い合いが続いたのち、では一度車から降りてみようということになり、離合のために設けられた小さな空き地に車を停めた4人は真っ暗な中に下り立った。
梅雨が明けたばかりでまだまだ山の空気はじっとりと湿気を含んでいたが、街の中に比べるといく分涼しく、街の喧騒など全く届かない静かな場所だった。
う~んと伸びをして、その場に立ってみるとB郎の主張どおり道路は下っているのが見て取れた。
「ほんまや、有馬温泉へ行っちまうとこやった、引き返そうか」
「その前におしっこ」
つられて4人は道端で草むらの方に並んで立ちションをした。
バリバリバリ・・・
「ん?何の音?」
バリバリバリ・・・
草むらに小便のかかる音ではない。
「何かある、青いものが」
「お宝ちゃうか?」
暗がりに横たわるその“青いもの”はビニールシートだった。
全くの好奇心から4人はシートをめくってみた。
                                                       ひえ~~~。
それは、女の子の死体だった。
腰を抜かした4人は、それでもそれ以上現場には手をつけないで慌てて車に乗り込んだ。道路や木の特徴などから現場の様子を精一杯覚えて、もと来た道へ引き返し、なんとか電話のあるところまでたどり着いて110番通報した。
それからは警察を案内して、しかしそれさえまた深夜の山道を迷いながらやっとのことで現場に戻り、明るく照らし出された投光機の中、4人はかわるがわる説明に必死だった。
投光機の明かりは4人を明るく照らし出し、流れる汗は熱さのせいか、それとも尋常でない体験にカラダが拒否反応を起こしてか区別がつかなかった。
道に迷った山の中で、車から降りて立ちションをして見つけた死体。
広い山の中でこんな偶然があるのだろうか。
4人はただただ、恐ろしかった。

しかし、本当に恐ろしいのはこれからだった。
当然、第一発見者の4人は警察で事情聴取された。ひとりづつ、別々の部屋で・・・。
最初はその日の夕方からのことを思い出しながら話していた4人だったが、事情聴取の警察官の顔つきが好意的でないことに気づいた4人は、疑われていることをひしひしと感じた。
・・・試験が終わって浮かれた学生が集団で少女をナンパして山中に連れて行き、暴行を働いて殺してしまったんじゃないか、死体は偶然に見つけたというが広い山中、そんな偶然があるもんか・・・                                          強面の捜査官の目はそう物語っていた。
時間が経つにつれて、事情聴取はだんだん取り調べの様相を呈してきた。
調べる方の口調も厳しく、何度も同じ事を聞いてちょっとでも前に言ったことと違うことを言おうものならしつこくつついてきた。
眠ることなど許されない長くてつらい夜が明けた。

『無実、冤罪、再審請求』
過去に新聞を賑わせた見出しがまぶたの裏に浮かび、理不尽な状況に憤りながらも怯えて、最悪の状況が4人の頭の中をぐるぐるしだしたころ、事態は急転直下。
「きみたち、ご協力ありがとう、帰ってくれていいよ、お疲れさん」
取調室から出されて会議室に集められた4人に、中間管理職の立場にありそうな捜査官がそう言った。
「へっ?なんで?」
「そんなこと言われても、ちゃんと説明してくれないと困りますよ」
口々にぶつくさ言う4人、さすがに申し訳なく感じたのか年配の、ちょうど4人の父親くらいの年頃の捜査官が説明してくれた。

被害者は小さいときから身体が弱くて病気がちの少女で、将来を悲観した母親が無理心中を図ったものである。母親はあとを追って死のうとしたがどうにも死に切れなくて先ほど警察へ出頭してきた・・・とのことだった。

「しかし、あんな真っ暗な山の中でよう見つけたなぁ」
玄関まで送ってきてくれた捜査官はまだ半信半疑の表情だったが、若者たち4人は何となく感じていた。
身体の弱い少女は、外で遊ぶことも、ひょっとして学校へ通うこともままならなかったのかもしれない。楽しそうにドライブする若者と一緒に遊びたくて
『見つけて!わたしはここにいるの』
と叫んで、4人を呼び寄せたんだ、きっと。
ひょっとして少女は一緒に車に乗っていたかもしれない。歌も歌っていたかもしれない。
警察署を出た4人は、もう少しも怖くなかった。
その日一日の暑さを予感させる陽射しの中、4人は建物の方を向いて手を合わせ、それぞれの夏休みに散って行くのだった。                           
                                 

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コメント

うまいなあ!

・・・そうとしかコメントできない・・・

投稿: bonn | 2008年1月25日 (金) 15時54分

呼び寄せたのはいいけど、
おしっこかけられたのはやっぱ、誤算だろうか・・・
(すんまそん~~)^^;

夜道のドライブ、たしかにふと意識すると怖いす。
テレビなんかで見た怖い番組を思い出してしまって。
(見なきゃいいのに、見ちゃうのね。)

投稿: miyuki | 2008年1月25日 (金) 16時03分

bonnちゃん
この手の話、わたしうまいですか?
実はこの話、ず~っと前にbonnちゃんにしましたが覚えてないでしょうね。
細かい肉付けはしましたが、基本的にはノンフィクションです。

1回しか聞いてないのですが、忘れられません。
なぜ今頃こんな話を?と思われるかもしれません。
それは・・・
うーじんの受験が終わったら温泉でも行きたいなって話になって、どこがいいだろ、城之崎温泉、西浦温泉、そして有馬温泉と候補があがり、ぞくっとして思い出したのです。

きょうは寒すぎてぞくっとします。
湯たんぽの用意は万全、今からお布団に入れておいたら寝るときほっかほかです。

投稿: れいち | 2008年1月25日 (金) 19時36分

miyukiさん
おしっこかけられたのは誤算といえばそうでしょうねぇ。
もっときれいな形で見つけて欲しかったでしょうが、おしっこかけないとバリバリという音がしなかったわけで、現実はこんなもんかもしれません。

夜中のドライブで喜んでいるのは若いカップルくらいで、こちら怖ければ怖いほどオトコとしては・・・持って行きやすい、と。
しかし、ドライブほどトイレに困るデートはありませんな、はははっ・・・。

こたつでにゃんこらと寝ていませんか?
のどが渇いて風邪ひきますよ。

投稿: れいち | 2008年1月25日 (金) 19時43分

くぉらぁ~

今は冬。
しかも外は雪でいっぱい。
この手の話は季節が違うぞ。

ったく、身体の芯まで寒うなってもたやないかい。
積もった雪に立ちションでもしてくるか。

投稿: ふじ | 2008年1月25日 (金) 21時31分

ふじさん
外は雪ですか?
こちら夕べは吹雪いてましたが、今日はすっかり溶けて道路はすっか~んと乾いています。
ココロ凍らせてしまったみたいですみません。
わたしもこれ聞いたときには背筋がぞぞーっとしたもんです。
他にもぞぞーっとする話ありますんで、ぼちぼち書いていきます。

雪におしっこかける時って、なにか模様とか字とか書きたくなるもんなんですか?
模様は“へのへのもへじ”で字は“あほ”ですか?
そうやって腰を振ってる姿、後ろから見たらおマヌケです、きっと。
(ふじさんがそんなことやる人だとは思ってないけど・・・)

投稿: れいち | 2008年1月26日 (土) 00時47分

温泉!
いいですねえ!
そりゃあ、カニ付きでしょう。
ゴン太がクラブの卒業旅行にカニ旅行にいくんだとさ!

数年前までは恒例だったカニ地獄旅行も、いまじゃ家族旅行さえありえない・・・カニ旅行いきたいよ~ぉ!!!!!!!!!!!!

rei さんとこのに私一人寄せて~
B男さんに優しくしてあげるから。
何回同じ話してくれても、初めてのように(ってか、いつも本気で初めて・・・・汗)聞いてあげるからさあ。
真冬の怖い話だって、文句言わずに聞くから。


投稿: bonn | 2008年1月26日 (土) 22時26分

れいちさん、ほんとに話うまいです。文壇デビューはまだですか?
直木賞、芥川賞、ホラーを対象にしたのもありましたよね。デビューしたらサインとかくださいね。大事に取っておきます(キスマーク入りで写真付きとかなら、後々高く売れるかも知れんし‥)

冗談抜きでウマイ~!パチパチ


投稿: みどちん | 2008年1月27日 (日) 15時13分

bonnちゃん
うちの面々と一緒に旅行したいって?
うーじんと人対人の会話が成り立つかなぁ…!?
最近何か尋ねると“はい”のときは「あっあぅ〜〜〜」と声高に吠え“いいえ”のときは「あぅわぅ」と小さく吠えてますからな。
「普通に喋れへんの?」というと「がるるぅ」と言います、ほんまです。

B男くんはbonnちゃんのことお気に入りだから、がっつり捕まるぜぃ。
オチのないハナシが延々と続き、聞かされる側の都合など知ったこっちゃないさ。
この…死体発見事件もまた聞かされるかもよ。
『ビニールシートにばりばりと…』のくだりでは『早く続きが聞きたい』って風を装ってあげたらそりゃもう喜ぶことでしょう。

投稿: れいち | 2008年1月27日 (日) 16時40分

みどちんさん
そちらその後も積雪は増え続けているんでしょうか。
こんなこと言っちゃ怒られるかもしれませんが、豪雪地帯の雪景色はきれいですねぇ。
しかし、雪の降る中、車を走らせると特に夜は自分にだけ雪が降りかかっているように思うのはわたしだけ?

さて、拙文を褒めていただいてありがとうございます。

わたくし、某BBSでは妄想系パロディ小説を2本書いたことがあるのですが、そちらは書きながら笑えてきてキーを打つ手がふるえて困りました。
高校時代、好きだった男の子のファンクラブを作り、新聞を発行する中で妄想小説を書いていたこと、底辺に流れるものは少しも変わってないなぁと我ながらあきれます。

文壇デビューの予定はまったくないですけど、キスマーク入りの色紙なら今すぐにでもお送りいたしますわよ、うっふ~ん。

投稿: れいち | 2008年1月27日 (日) 17時31分

れいちさん、お久しぶりです。
ていうか・・・

うわぁ~・・冬の怪談はよけいにぞくっとくるなあ・・・と思ってコメントをここにカキコしたものの、翌日見てみれば、
ン?我が書き込みはどこに???
と、なーんの足あともない有様。

どうやら確認だけして送信するのを忘れた模様・・・

“おおッ!?書いたはずのコメントか消えた!”
と、とんだ怪談を自作自演していたことをここに白状いたします・・・

投稿: 湖知流 | 2008年1月28日 (月) 09時18分

湖知流さん
お寒うございます。
このたびの寒波お見舞い申し上げます。

わたしはこたつでパソコンやってますので下半身はほかほかなんですが、夜中にキーを打ってますと指先が冷えますね。
こちらを読んでくださっている、とある方が指先の開いた手袋を愛用していると仰ってました。

で、余計に寒々しい記事をUPしてごめんなさいまし。次回はちょっとほっこりする記事にしましたので
>とんだ怪談を自作自演・・・
に懲りずにまたお越しくださいませ。

《私信》
脱出シリーズ・・・閉じ込められてパニック起こしそうだにゃん。
やめられないとまらない・・ぶつぶつ。

投稿: れいち | 2008年1月28日 (月) 17時13分

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